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「ショー? ショーなら今、しているじゃない」
シャルは男の問いに呆れたように答えた。周囲の客がざわつくのが分かる。
「私だけのショーが見たいんだ」
スーツ姿の男は自分を見下すシャルから目を逸らさなかった。シャルは鼻で笑う。
「僕とセックスしたいなら裏のマネージャーを通してね。僕はタダじゃないんだ」
シャルは素足で男の鼻を軽く蹴ると、立ち上がって「興が覚めたわ」と舞台の裾に戻って行った。ショーを中断されたことに怒る客の怒号が気持ちよくてしょうがなかった。
「で、お前はそのおっさんのせいでショーをやめて帰ってきたのか」
夜蝶のシャルと呼ばれる少年は目の前の男、劇場支配人の北原誠司に頬を叩かれた。ジン、とした痛みが彼に生きていることを感じさせる。小汚い狭いアパートの一室。いつから干していないのかも分からない布団をかけられたベッドの上。手首を荒縄で縛られた状態で北原に押し倒されている。北原の男にしては長い髪がシャルの上に影を落とした。
「だって、あのおっさんときたら、僕を前にしても息を乱しもしないで突っ立っているの。それに、不満の溜まった客の顔を見るのも最高。みんな僕に平伏せばいい」
もうひとつ、シャルは北原に頬を叩かれる。涙が頬を伝うのが気持ちいい。
「今度勝手に逃げたら食事は水と俺の精液だけだと思え」
シャルは北原に髪を掴まれると、充血したペニスを口に押し込まれる。まるで性具のように頭を前後させられ喉の嫌なところに当たる度に嘔吐くが北原は気にも留めなかった。シャルも応じるように舌で受けとめ、卑猥な音を立てて吐き出される液を一滴残らず吸い取る。シャルは嫌だという感情を忘れていた。否、思いだすことをやめていた。
「ショーではサディスト気取ってるくせにいざセックスすると真性のマゾだな、――ちゃん?」
北原はシャルの名を呼びながら彼の膨らんだものの先を爪ではじく。それは赤く腫れて蜜をどろりと垂らしていた。幼い身体つきからは想像できない凶悪なそれを玩具のようにこねくり回す北原をシャルは息を荒くしてじっと睨んだ。
シャルは最高のサディストだ。何故なら彼自身が最高のマゾヒストだからだ。
そう北原に教えられたのはほんの数年前、しかし幼いシャルからすればとうの昔のことのようだった。
「誰も知りはしないさ。お前が『されたい』ことをショーでしているってことをさ」
北原がシャルの顎を強く掴んでベッドへ投げ飛ばす。今晩のショーで顎を蹴り砕いた男の顔をシャルは思い浮べる。骨折の痛みを想像するだけで絶頂を迎えてしまいそうだった。砕けた骨がぶつかり合う音が体内に響くのはどんな波だろう。絶頂より痛い波だろうか。切れた血管と神経が磨り潰される痛みはどんなエクスタシーを与えてくれるだろうか。玩具のように壊れたら捨てられる屈辱はどんなに惨めだろうか。ショーの合間もひたすら自らに痛めつけられる自分を想像してはゾクゾクとしたものを感じていた。
「こんな変態は一生こうやってショーをして稼げばいいのさ」
シャルは北原にうつ伏せで脚を開くと、もっと、と求めた。
北原はシャルの腰に留まる黒揚羽を撫でると、一思いに秘孔を貫いた。嬌声を上げて官能の淵に落ちていく。尻を平手で叩かれる度に手首を縛る赤い縄を噛みしめてぽろぽろと涙を零す。
絶望こそが快楽だと、このときシャルは思っていた。
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