オリジナル小説サイト「渇き」

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いつだって今が1番

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 成人式を迎えたのは四年前だ。
 僕の成人式は中学校単位で行われ、卒業ぶりに会う人がほとんどだった。というのも僕が中学三年生のときは携帯電話、スマートフォンではなくガラケーと今では呼ばれるタイプのものですら持っている人がクラスに半分くらいの時代だった。僕は習い事の送り迎えの関係で携帯電話を持っていた。けれど中学三年生のときに知っていた友人たちのメールアドレスはほとんど意味をなしていなかった。高校生のときにはほとんどの人たちがスマートフォンに買い替え、連絡手段もEメールではなくLINEに移り変わっていた。なので同じ中学で連絡先を知っていたのは毎年正月に顔を合わせる従兄だけだった。

 結果として成人式で再会した友人たちとLINEを交換し、今でも連絡を取り合って月に一度ほど会って食事やショッピングを楽しんでいる。

 成人式に行けなかったという人も少なくない。望む性の服装が着られないことを苦痛に思うトランスジェンダーであったり、中学校の同級生に会いたくない人もいる。僕は行ってよかったと感じたが、そういう人ばかりではないのだと心に留めておきたい。

 本題へ移ろう。
 成人式のとき、いや、高校生のときから周囲の大人に言われて困惑していたことがある。

「若いっていいね」
「若くて羨ましい」
「あなたくらいの頃に戻りたい」
「今が一番いいときだよ」

 こう言うのはいつも三十を過ぎた頃の大人たちだった。
 言われるたびに僕は戸惑った。確かに今が一番楽しいと感じる。けれど、大人になるってそんなにつらくて嫌なことなのだろうか。いつも答えに困ってはにかんでその場がすぎるまでじっと耐えていた。

 僕の幼少期は決して明るくない。
 小学校ではいじめに遭い不登校をしていた。
 中学校では他の小学校から来た子たちとは仲良くできたが、小学校時代を知る人たちからは後ろ指を指されながら過ごしていたように感じていた。
 そして高校を選ぶとき「誰も僕のことを知らないところへ行きたい」と片道二時間かかる私立高校を受験した。
 高校ではたくさんの友人に恵まれた。僕のセクシャリティを受け入れて、男子生徒として扱ってくれた友人たちには感謝しきれない。高校中退してからも交友は続き、今でもたまに集まっては明け方まで飲み明かし、しょうもない話で盛り上げる仲だ。
 大学生になって同人活動を始めた。同人活動をするきっかけをくれたのも高校の友人だ。そして同人活動を通して信じられないほどたくさんの友人に出会い、たくさん応援と作品への愛情をもらっている。
 成人してからは成人にしかできないことをした。成人向けの作品を発表したり、クラブイベントへ行ったり、バーで美味しいカクテルを楽しんだり。ストリップショーを見たことも大きな経験だ。
 僕にとって今こそが一番楽しい。過去が暗かったからというのもある。けれど、大人になるって本当に楽しいのだと感じている。
 もし大人たちが言うように「若い今が一番」なんて言葉を鵜呑みにしてしまったら、大人になることを怖がっていたかもしれない。「若い今が一番」という言葉は未来への希望を奪う言葉だ。
 僕は新成人の友人に対して「ようこそ! 大人って楽しいから期待してな!」と声をかけた。本当に楽しい大人になれるかは保証できないけれど、どうか少しでも不安を取り除いてこの先を楽しく生きていてほしい。
 そして僕はいつまでも、声をかけてきた大人たちと同じ年齢になっても「大人って楽しいな。今が一番楽しいよ」と言える生き方をしたいと願う。

 九十近い父方の祖母がぼそっとつぶやいた。
「むこう(母方)のおばあちゃんはまだ七十過ぎって若くていいわね。まだ杖無しで歩けるんでしょう?」
 そう茶目っ気たっぷりに言う祖母を見て、僕も八十過ぎたら「若いっていいね」って言ってみよう、とクスクス笑った。

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