オリジナル小説サイト「渇き」

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014/冬のニオイ

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 季節にはさまざまなニオイがあると思う。
 そのなかでもとりわけ僕は冬のニオイが好きだ。
 
 冬の玄関。僕はこのニオイで冬が来たことを自覚する。
 形容しがたく「冬のニオイ」としか言えないのだが、胸にすっと入ってくる冷たさが心地よく、自然とワクワクしてくる。
 まるで玄関から(本来は煙突からだが)サンタクロースが入ってくるのを期待しているような気分になる。
 夜、寝室に向かう前に通る玄関で、「ああ、冬だなあ」と頬を緩める季節が恋しい。
 
 冬のストーブ。もやした石油で焦げた鉄枠のニオイ。
 このニオイがないときっとあったかさも半減なのだろうなと思う。
 ニオイから暖められている。ストーブの前を陣取って、本を読みながら過ごす冬はたまらない。
 
 冬の雪。この世で一番透明なニオイ。
 心の中を透明に洗い流してくれるニオイ。朝、雪が積もっているとすきっとした背筋が伸びる思いで心が洗われる。
 こんな冬の朝が大好きだ。
 
 様々な季節の中で僕は冬が好きだ。
 冬はうれしいニオイに包まれている。
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