オリジナル小説サイト「渇き」

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012/多様な学生たち

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 僕は夏になると東京へ行く。大学のスクーリングを受けるためだ。
 僕は持病のために大学へ通うことができず、こうして通信制の大学に在籍している。
 東京は空気の匂いが違う。洗練されていて、そしていい意味で他人行儀。人に深く立ち入らない寛容さが僕は好きだ。
 
 スクーリングへ行くと、キャンパスには一見学生には見えないような人がほとんどだ。
 食堂ではマダムたちがおしゃべりに花を咲かせ、おじさんは一人で定食を食べ、若者たちは大声で何かしら盛り上がっている。非常にカオスな空間だ。
 そんな中、僕は毎年味噌野菜ラーメンを食べる。一番安くて一番お野菜が多くて、味が好きだから。
 もう何年も通っているのですっかり馴染みの懐かしい味になっている。
 
 講義を終えると、仲間たちが集うパブがある。
 そこの客層も老若男女さまざまだ。
 どうしてここの大学に来たかという話によくなる。
 学び直したいことがあるから。夢を追うために専門学校へ行きながら来ているから。僕と同じように病気をしたから。生涯学習として。仕事が暇だから。
 さまざまな理由があるが、共通するのは「学ぶことが好き」という意識だ。
 夏の熱気の中で酒を飲み交わし、その中でも「割り勘は倫理学」「功利計算をしなくては」などと講義で扱った内容をジョークとして話すこの空間が好きだ。
 
 僕は昔「勉強が好きとか気持ち悪い」といじめられたことがある。
 そんな僕を肯定してくれる夏が今年はやってこない。
 どうかまた仲間たちと学ぶ喜びを分かち合えますように。
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