オリジナル小説サイト「渇き」

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008/老い

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 前話とは違う方の祖父母の話をしようと思う。
 祖母は看護師で、病弱な僕のよき理解者だ。一方、祖父は頑固でいつも何かに腹を立てている。
 今日はその祖父の話をする。
 僕が幼い頃、祖父はとても教育熱心で、幼い僕や弟、いとこたちにひらがなや数字の足し引きなどを教えてくれた。ひらがなの「あ」はどっちに回るのか。カタカナの「サ」の書き順。それらを教えてくれたのは祖父だった。
 よく遊びにも連れて行ってくれて、やなに鮎を食べに行ったり、テーマパークに連れて行ってくれることもあった。
 そのときから、祖父は少しわがままなところがあって、帰るタイミングは決まって祖父の飽きた頃だった。
 
 祖父は肺炎になった。慢性の、少し咳が出る程度の、あまり重くはないものだった。
 けれどインフルエンザなどを併発すれば命に関わることもある。
 そのころから、祖父は内科で精神安定剤をもらうようになった。
 家からほとんど出ず、リビングに座ってペットの犬を膝にのせてクロスワードやナンプレを解く日々。食事に誘っても断られることが多くなった。
 そのくせ自動車免許の返納を勧めたら頑なに拒んだどころか、更新する際に受けた認知症検査の結果を誇らしげに家族中に自慢して回った。
 小さくなっていく祖父の身体と、肥大していく自尊心。
 もう片方の祖母は「もうすぐお骨になりますから」とにこやかに言ってのけるけれど、こちらの祖父は絶対に言うことはないのだろう。
 年老いた人々はみんな死ぬのが怖くないわけではないのだと知った。祖父は、毎日怯えている。怯えた猛獣のようにイライラと周囲に当たっている。
 この差はどこで生まれるのだろう。
 僕は老いたとき、どちらの側の人間になっているのだろうか。
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