オリジナル小説サイト「渇き」

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005/神さまをしんじてた

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 神さまという概念を知る前から、僕は神さまを知っていたのかもしれない。
 もっとも、僕が通っていた幼稚園は聖書の読み聞かせとクリスマスにページェントと呼ばれるキリストの誕生を演じる劇をするようなところだから、神さまという言葉は物心ついたときには知っていた。
 神さまじゃないと気づいたとき、深い深い絶望に苛まれた。悲しみより怒りが強かった。だから僕は神さまだった人に怒鳴りつけて、酷いときには手を上げた。
 母は、神さまじゃなかった。
 何も言わなくても僕のことをわかってくれて、いつでも守ってくれて、絶対的な味方で、完璧だった。
 だから、だからこそ、母が人間だとわかったとき、恐ろしくてたまらなかった。誰が僕を守ってくれるのだろう、と。
 母を人間だと知ることを、人は自立と呼び、その始まりの動揺を反抗期と呼ぶのではないだろうか。
 今は人間の母だけれど、だからこそまだ距離感がつかめなくて、ほんの少しぎこちない。
 反抗期が終わるのはいつなのか、この戸惑いは大きい。
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