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〈なんで告白したの〉
幸瑠は井澄にメッセージを送った。すぐには返信がなかったので夕食を家族で囲んだ。
大賀は居心地の悪そうにも見えたし、それは幸瑠の主観からかもしれない。いつもより口数の少ない兄はフライドチキンを丁寧に骨から外して食べていた。クリスマスはわたしたちにとって特別な日であり、毎日がクリスマスだった。
「ごちそうさま」
幸瑠は先に席を立つ。
「なあ、幸瑠」
「何?」
「井澄っていつからそうなんだ」
兄の目は穏やかだった。
「さあ。最初からじゃない?」
「最初から、か」
「少なくともわたしは知っていたよ」
そうか。じゃあ、
「幸瑠たちの関係ってなんなんだ?」
「なんなんだろうね」
分かんないや、と幸瑠は肩をすくめた。本心だった。
〈今日だって思ったから〉
部屋に戻ると返信があった。クリスマスだから? ロマンチックだね、と茶にした。
〈フラれた感想をどうぞ〉
今度はすぐに返信があった。
〈意地悪か。思ったより悲しくない〉
よかったね、と送ろうとして、なにがよかったのか分からなくてやめた。
悲しめないのも悲しいことなのか、それとも恋の終わりは祝福すべきものなのか。幸瑠には分からないことが多すぎた。
〈明日、会えるか?〉
無機質な文字列の奥に井澄の熱を感じる。求められている。求めているよ。
〈うん。図書館に十時でいい?〉
井澄からアニメキャラのスタンプが送られてくる。OKということらしい。幸瑠は犬のスタンプでおやすみを伝えた。
幸瑠と井澄は集中力が切れるまでマークシートが印刷されたノートを塗りつぶして、遅めの昼食に近くのファストフード店に入った。もっとも、幸瑠は昨日のことが気になってそれどころではなかったのだが、井澄が取り憑かれたように問題を解き続けるものだから幸瑠は声をかけることができなかった。井澄は本当に東京まで行くつもりなんだ。誰も井澄のことを知らない土地へ。大賀のいない東京へ。
「数学は安定して八割取れるようになったけど、英語が微妙だな」
井澄と一緒に東京。それが正しい流れというもので、幸瑠と井澄は共に生きる運命だろう。そう信じたい。だって、わたしたち、
「国語は小説がな、って、お前聞いてる?」
「えっ、なに」
「ぼーっとしてるな。何かあった?」
「何かあったのはあんたでしょ」
あ-、と井澄が間抜けな声を出す。
「いいんだよ、これで。俺の恋が叶う事なんてないから」
傷付いた笑みが痛かった。
「おれ、大賀先輩に『大切な弟だ』って言われて嬉しかった。それでいいんだよ。それだけで」
「そうかあ」と幸瑠は悲しくなった。よりどころを失ったように不安になる。
「ねえ、この後あんたの家行っていい?」
井澄は少し考えて「二次対策したいからおれは図書館に残るよ」と答えた。
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