オリジナル小説サイト「渇き」

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破局指輪

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 高校生のとき、付き合っていた彼氏とペアリングを買った。ショッピングモールの中に入っているロック調のアクセサリーショップで店員さんにサイズを測って貰って選んだ。必要な肉もないほど痩せた彼の指は僕の指より細くて、店員さんは彼にレディースの商品を薦めた。彼は頑なに男性向けのデザインを選び、そして僕には同じデザインの女性向けモデルを買った。ひとつ六千円はしたと記憶している。高校生にしては大金だ。素直に嬉しいとは言えなかったけれど、喜んでは見せた。
 彼と僕は携帯電話のストラップとしてチェーンに指輪を通して学校にも持って行った。家にいるときは左手の薬指に。眠るときは枕元に置いた。恋愛に終わりはないと信じていた。それほどまでに僕たちは幼かった。
 僕はいわゆるゴスロリ、V系、原宿系と表現されるファッションが好きだった。耳には大ぶりのイヤリング。首にはチョーカー。足にはガーターリングをつけることもあった。そして指にも大ぶりの指輪をつけたいと思っていた。そのようなファッションを心から楽しんでいた。
 しかし彼は快く思っていなかった。

「怖い」
「肌触りがよくない」
「女の子らしくない」

 そうやんわりと確かな棘を持って僕の好きを否定した。

 一緒に買い物をしていたとき、チェーンのプチプラアクセサリーショップに立ち寄った。目に留まった指輪を手にとって「これ可愛いな」と僕は言った。彼を見ると、驚くほど冷たい目をしていた。
 彼が口を開く。
「ねえ、指輪はペアリングしかしないって言ったよね? 約束したよね? 特別じゃないの?」
 冷淡に、そして早口で僕をまくし立てた。僕は憮然として指輪を棚に戻し、そのままデートを続けた。彼の機嫌が戻ることはその日のうちはなかった。
 積もり積もった彼への鬱憤を爆発させ、僕はきっぱりと別れを告げた。
 別れ話の帰り道、その足でアクセサリーショップへ向かい、僕が可愛いと言った指輪を買った。ひとつ五百円だった。左手の親指にはめて、左手の薬指からペアリングを抜き取った。
 僕の指は僕のものだ。自由でいられないのなら恋なんてしない。
 親指の指輪は強い意志を守ると言われている。

 自分を殺す恋なんて、もうしないと誓った。

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